アブシンベル神殿の奇跡!巨像移設の真相と年2回の光の秘密を徹底解説
エジプト第19王朝のファラオ、ラムセス2世が自らの神格化と南方のヌビア地方に対する軍事的威圧を目的に築いたアブシンベル神殿。この神殿が20世紀半ばに直面したのが、国家近代化の波による「水没の危機」でした。
1950年代後半、エジプト政府はナイル川の治水と安定した電力供給を目的として、巨大国家プロジェクト「アスワン・ハイ・ダム」の建設を決定しました。しかし、このダムの完成によって形成される巨大な人造湖「ナセル湖」の水位上昇により、アブシンベル神殿を含む貴重なヌビア遺跡群が完全に湖底へと沈むことが確定してしまったのです。
この危機に対し、1960年に国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が世界に向けて文化遺産救済を呼びかける国際キャンペーンを展開しました。「一国の遺産は全人類の遺産である」というこの呼びかけには、世界50カ国以上から資金と最新技術が集結。1964年から1968年にかけて、人類史上類を見ない「世紀の大移設プロジェクト」が実行されました。
移設の手法として採用されたのは、神殿を重さ約20〜30トンのブロックに細かく切断し、クレーンで吊り上げて元の位置より高低差で約64メートル上、内陸へ約180メートル後退させた場所に再構築するという途方もない工法でした。岩肌に刻まれたレリーフや巨像を傷つけないよう、厚さわずか数ミリのワイヤーソーや手作業による切断が行われ、分割されたブロックの総数は約1,036個に及びました。
この国際的な救済事業の成功が契機となり、1972年に「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」が採択され、1979年に「アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」として世界文化遺産に登録されました。アブシンベル神殿は、まさにユネスコ世界遺産制度の原点とも呼べる存在なのです。