バカ殿のモデルは誰だ?織田信長説の真相と志村けんが遺した誕生秘話
バカ殿を象徴する最大の特徴といえば、能面のように真っ白な肌、一本につながった太い眉毛、小さく丸く描かれたおちょぼ口という異様なビジュアルです。なぜ志村さんは、これほど極端なメイクを選んだのでしょうか。
最大の理由は、「歌舞伎や古典芸能に倣った感情の増幅」と「下品さの脱色」にありました。日本の伝統芸能である歌舞伎において、白塗りは貴族や高貴な身分を表す記号であると同時に、照明設備が未発達だった時代に役者の表情を遠くまで届けるための技術でした。志村さんはこの白塗りを逆手に取り、眉の微小な上下動や口元の歪みだけで観客に喜怒哀楽を直感させる視覚言語を作り上げました。
さらに重要なのは、コント内で頻繁に描かれる「お色気」や「過激ないたずら」を中和する緩衝材としての機能です。志村さんが生身の素顔で若い女性に抱きついたり悪ふざけをしたりすれば、生々しいエロティシズムや嫌悪感が生じかねません。しかし、全身を白塗りにし、架空の「お人形」のような記号と化すことで、視聴者はそれを寓話的なファンタジーとして受け取ることができました。無邪気な童心と大人の悪戯心を同居させるための、極めて高度な心理的カモフラージュだったといえます。