えびすユッケ事件の真相と社長の現在|集団食中毒と生肉規制の全貌
日本中を震撼させた焼肉酒家えびすのユッケ集団食中毒事件。土下座会見で話題となった社長の現在や判決の真相とは何だったのか。連日の報道で世間の怒りが頂点に達していた2011年5月2日、フーズ・フォーラスの勘坂康弘社長(当時)は報道陣の前に姿を現しました。
会見冒頭、勘坂元社長は興奮した面持ちで「法律で生食用として肉を卸していい業者は日本に一社もありません」「どこの焼肉屋も同じ肉を出している」「悪いのは法律と卸業者ではないのか」と、自らの非を認めるどころか逆ギレとも取れる持論を展開しました。ところが、同席した弁護士に耳打ちされ、報道陣から死者が出ている重大性を激しく追及されると態度は一変。突如として会見場のコンクリートの床に膝をつき、両手を広げて「本当に申し訳ありませんでした!」と絶叫しながら額をアスファルトに擦り付けたのです。このえびす社長土下座会見の異様なパフォーマンスは、遺族感情を逆撫でしただけでなく、企業の危機管理対応として最悪の事例としてメディアに刻まれました。
社会的な厳罰を望む声が高まる中、富山・福井・石川・神奈川の4県警合同捜査本部は、業務上過失致死傷の疑いで勘坂元社長や大和屋商店の役員らを書類送検しました。しかし、2016年2月、富山地方検察庁が下した判断は不起訴処分(嫌疑不十分)でした。
世論を騒然とさせたえびすユッケ裁判判決(不起訴判断)の真相は、「予見可能性」の立証の壁にありました。検察は、当時の日本国内において「生食用牛肉の表面をトリミングすれば、内部にまで浸透したO111を完全に除去できる」という科学的知見が外食業界全体に確立していたとは言えず、勘坂元社長らが食中毒の発生を具体的に予見することは困難だったと結論付けました。検察審査会に申し立てが行われたものの、最終的に「不起訴相当」が維持され、刑事罰としての有罪判決が下ることはありませんでした。
刑事責任を免れた一方で、民事上の責任は極めて重いものでした。フーズ・フォーラスは事件直後に全店閉鎖へと追い込まれ、2011年7月に富山地裁へ特別清算を申請して事実上倒産。えびすユッケ被害者と損害賠償を巡る民事訴訟では、裁判所が会社および勘坂元社長個人に対して総額数億円に上る巨額の損害賠償責任を認めました。しかし、会社は清算され、勘坂氏個人も自己破産したため、被害者や遺族に支払われた賠償金は請求額のわずか一部に留まり、深い傷跡を残しました。
現在、勘坂元社長は公の舞台から完全に姿を消しています。関係者の証言やこれまでの追跡報道によると、破産後は北陸地方を離れ、運送関連の業務や知人の事業を手伝いながら、目立たぬよう生活を続けていると伝えられます。刑事上の前科はつかなかったものの、5名の命を奪った悲劇の責任者という社会的烙印を背負い続ける日々は、決して消えることはありません。