矢沢永吉『時間よ止まれ』が社会現象になった真相と誕生秘話
『時間よ止まれ』の音像を語るうえで欠かせないのが、奇跡的ともいえるレコーディング参加ミュージシャンの豪華さです。アレンジャー(編曲)を務めたのは、元ジャックスのメンバーであり名プロデューサーの木田高介。そしてスタジオに集められたのは、のちにイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成する直前の坂本龍一(アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、シンセサイザー)と高橋幸宏(ドラム)、凄腕ベーシストの後藤次利、日本を代表するパーカッショニストの斉藤ノヴ、さらにギターには鈴木茂や水谷公生といった日本ポップス界の至宝たちでした。
当時のスタジオ内の空気は、尋常ではない緊迫感に包まれていたと伝えられています。矢沢永吉が求めたのは、単なるロックンロールの疾走感ではなく、南国のスコールや乾いた砂浜を想起させる「湿度と哀愁を帯びたアダルトなグルーヴ」。これに対し、東京藝術大学大学院を出たばかりで気鋭のアレンジャー・プレイヤーとして頭角を現していた坂本龍一らは、緻密なコードボイシングと先鋭的なフレーズで応戦しました。
イントロの印象的なキーボードリフや、浮遊感をもたらすフェイザー処理されたエレピの響き、後藤次利によるうねるようなチョッパー(スラップ)ベースと斉藤ノヴのパーカッションが織りなすポリリズムは、当時のスタジオミュージシャンたちの高度な職人技と実験精神の結晶です。ジャンルの壁を越えた天才たちがスタジオで火花を散らしたからこそ、半世紀近くを経た現在でもまったく古びない奇跡のサウンドが完成しました。