『笑ゥせぇるすまん』喪黒福造のドーンとトラウマ回に隠された人間の業
原作漫画(初期タイトル『黒イせぇるすまん』)とアニメ版を比較すると、メディアの違いによる興味深い差異がいくつか存在します。
原作漫画は1968年に『ビッグコミック』で連載がスタートした青年向け作品であり、アニメ版よりもさらに生々しい人間の醜悪さやエロティシズム、救いのない結末が色濃く描かれていました。アニメ化にあたってはブラックユーモアの切れ味を保ちつつ、より幅広い層に届くようテンポ感やビジュアルが洗練されました。
そして、作中で喪黒の拠点として毎夜登場する隠れ家バー「BAR魔の巣」と、カウンターに佇む無口なマスターの存在もファンの間で長年議論の的となっています。マスターは客の悲劇や喪黒の企みをすべて目の前で見聞きしながら、決して一言も発さず、一切の感情を表に出しません。彼は人間界と魔界の境界を見守る観測者なのか、あるいは喪黒と同類の怪異なのか――。作中で明かされないマスターの沈黙こそが、作品全体に漂う底知れぬ不気味さを際立たせています。
なお、本作には一般的な「最終回」が存在しません。原作漫画でも喪黒の正体が暴かれたり退治されたりすることはなく、彼は何事もなかったかのように夜の街へと消え、新たなターゲットを探し続けます。この「終わりなき人間の業」を描き切った幕切れこそ、本作が時代を超えて古びない最大の要因です。