なぜ「生きろ、そなたは美しい」と言った?もののけ姫に隠された衝撃の真相
映画史に燦然と輝くもののけ姫のキャッチコピーですが、その誕生プロセスはまさに難産を極めました。手がけたのは、ジブリ作品の言葉を長年紡いできた稀代のコピーライター・糸井重里氏。しかし、この作品の根底に流れる重厚なテーマは、従来のキャッチーなフレーズをことごとく拒絶しました。
スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏と糸井氏の間で交わされたFAXのやり取りには、膨大なコピーの没案が記録されています。当初、糸井氏から提案されたのは以下のような言葉でした。
【制作初期〜中期の没案リスト】
・「死ぬな。」
・「おそろしいか、愛しいか。」
・「人は、いつか死ぬ。だから…」
・「ハッピーエンドは、ポスターの中にしかない。」
・「昔、男と女がいた。森と人がいた。」
・「オレのなかに、おまえがいる。」
宮崎監督が描こうとしていたのは、従来の「自然保護=善、人間=悪」という単純な二項対立ではなく、生きることの業(ごう)そのものでした。鈴木敏夫プロデューサーは糸井氏の初期案に対し「これでは映画のスケールに負けてしまう」「宮崎駿の切迫感が伝わらない」と何度も再考を要請。糸井氏も「もう書けない」と弱音を漏らすほど追い詰められたといいます。
転換点となったのは、鈴木プロデューサーが漏らした「宮崎駿は今、若者に向けて生きろと叫びたがっている」というニュアンスでした。オウム真理教事件や阪神・淡路大震災、バブル崩壊後の閉塞感が日本中を覆っていた1990年代後半。混迷の時代を生きる人々へ向け、糸井氏が最後に絞り出したのが「生きろ、そなたは美しい。」というフレーズでした。これを見た宮崎監督と鈴木プロデューサーは即座に満場一致で採用を決めたと語られています。